相続財産に空き家が含まれる場合
1 相続した家が空き家になってしまうケース
ご両親が亡くなると、ご実家が持ち家だった場合、その土地と建物の相続が発生します。
ご実家が地方や郊外のニュータウンなどにある一方で、子供たちは都心部に住んでおり、ご両親の自宅に住むつもりがないケースが増えています。
そうすると、亡くなったご両親の自宅には誰も住んでいない状態となってしまい、空き家の相続が発生します。
2 相続した空き家を放置することのデメリット
⑴ 固定資産税がかかり続ける
不動産の相続が発生すると、相続人に対して固定資産税の請求がされるようになります。
そして、空き家を放置していると、土地も建物も全く使っていないのに、ただ固定資産税を支払い続けなければならないという、無駄な出費が発生します。
たしかに、宅地上に建物が存在する場合、基本的に固定資産税は大幅に減額されるというお話を耳にしたことがある方もいらっしゃると思います。
しかし、たとえ減額されていたとしても、支払うべき税金は生じ続けます。
さらに、空き家を放置し続け、老朽化などによって周囲に危険を発生させる可能性がある空き家であると判断されると、「特定空き家」に指定されてしまうことがあります。
この場合、固定資産税の減額がされなくなってしまい、固定資産税は何倍にも増額されてしまいます。
⑵ 近隣の住民への迷惑となりトラブルの原因になる
空き家は放置しておくと急速に傷み、いずれは傾いて倒壊するなどの危険が発生します。
隣の家の人にとっては、いつ崩れてくるか分からない恐怖が付きまといます。
また、空き家に木や草が生えている場合、成長して近隣の家に侵入してしまうこともあります。
空き家が老朽化し、見た目からも空き家であることが明らかになると、放火の対象になったり、犯罪者の拠点にされてしまったりすることもあります。
さらに、窓やドアが壊れると、虫や動物が住み着くようになり、近隣の家にも被害が発生します。
こうなると、近隣の住民もいずれ耐えられなくなり、場合によっては法的、あるいは事実上の措置を取ることも考えられ、トラブルに巻き込まれることになりかねません。
⑶ 空き家が老朽化すると売却が困難になる
空き家の住人(被相続人)が亡くなって日が浅い場合、空き家もまだ綺麗な状態であれば、土地を空き家ごと売却できる可能性があります。
しかし、時間が経過して空き家が老朽化すると、空き家を取り壊す条件でしか土地を売ることができず、買い手がつく可能性も下がってしまいます。
また、空き家を取り壊す条件で売買する場合には、売主の負担で解体費用が別途発生することになり、売買のコストがかさみます。
3 「空家法」により罰金が科せられることも
2015年に、空き家対策として「空家等対策の推進に関する特別措置法」(通称「空家法」)が施行されました。
この法律により実現されることは、いくつもあります。
具体的には、一定の要件に当てはまる空き家を「特定空き家」と指定すること、「特定空き家」と指定された建物の所有者に対し助言・指導・勧告ができること、勧告に従わない場合は命令を下し、これに背いた場合は罰金を科すことができること、が挙げられます。
特に注意が必要なのは、最終的には空き家に対して罰金が科せられることがあるという点です。
その流れについて見ていきましょう。
空き家とは、居住その他の使用がなされていないことが常態である建築物と定義されています。
そして、空き家が傾いて倒壊しそうになるなど保安上の危険を生じさせるおそれがある場合や、害虫や害獣が棲み付いて衛生上有害となるおそれがある場合など、空き家の所有者が適正な管理をしていないと行政機関が判断した場合、空家法に基づき、その空き家を「特定空き家」と指定することがあります。
行政機関は、地域住民全体の利益を考えなければならない立場であるため、空き家の近隣の住民に不利益が生じる可能性がある場合には、対策を行わなければならない使命を負っています。
行政機関は、特定空き家の所有者に対し、まずは危険な状態や不衛生な状態を是正するよう、助言・指導を行います。
助言・指導に応じない場合には、勧告というものがなされます。
宅地上に建物がある場合、原則的には宅地の固定資産税は大幅に減額されますが、「特定空き家」に指定され、勧告がなされてしまうと、固定資産税の減額が受けられなくなってしまい、固定資産税が高額になります。
さらに勧告には、固定資産税の増額だけではなく、行政機関が特定空き家の所有者に対して改善の命令を行えるようにするという効果があります。
命令には法的効果があり、これに背いてしまうと、50万円以下の罰金が科されてしまいます。
4 空き家を相続した場合の対応方法
遺言で空き家の相続人が決まっている場合は、早急に住居として使用する、売却する、貸し出すなどの対応をすることで、前述のデメリットを解消することができます。
遺言がなく、空き家を取得する人が決まっていない場合、前述のデメリットを最小限に抑えるための第一歩は、とにかく早く遺産分割を終えることです。
空き家を誰が取得するか、遺産分割後どのように扱っていくかが決まらないと、売却する、賃貸物件にするなど、空き家のデメリットを解消する方法をとることが困難だからです。
もっとも、遺産分割協議は、相続人間で争いが発生してしまうと、長期間に及ぶことがあり、長いものですと、10年以上かかってしまうこともあります。
その間に空き家の老朽化を抑え、行政機関による勧告や命令を受けることを回避するためには、定期的に空き家を掃除したりするなどの手入れしておかなければなりません。
空き家の管理は、相続人のうちの誰かが行うか、または最近では代行サービスもありますので、これを利用するという選択もあります。
いずれにおいても労力や費用がかかりますので、遺産分割協議の争いを悪化させないためにも、空き家の管理に要した費用などは証拠とともに記録しておくことが望ましいです。
5 空き家を相続したら、まず相続登記を
登記とは、誰が不動産の所有者であるかを、公的に示すことです。
相続が発生した場合に、不動産の所有者の名義を相続した人に変更することを相続登記といいます。
空き家が相続財産に含まれる場合、遺言がある場合や、遺産分割協議を終えた場合は、相続した人が空き家の所有者になります。
遺言がなく遺産分割を終える前は、相続人が法定相続分で空き家を共有することになります。
相続登記をする場合は、司法書士の方などの専門家にお願いしなければならないことが多く、時間や費用もかかります。
しかし、相続した不動産、特に空き家においては、先ほどまでに述べたデメリットを早期解消するためにも、相続登記をするべきです。
理由は次のとおりです。
まず、固定資産税の請求は、法定相続人の中から代表相続人として指定された人宛に送られます。
代表相続人とされた人が本来の所有者でなくとも、請求が送られてしまいますので、他の相続人に取次が必要になったり、後で清算したりすることになり、手間が生じてしまいます。
次に、遺産分割等が終わり、空き家の所有者が決まって売却したり賃貸に出したりする際にも、相続登記が必要です。
第三者の目から見て、誰が本当の所有者であるかが分からないと、買う側や借りる側、あるいはその仲介をする不動産業者の方が安心して取引できないためです。
また、売却や賃貸を検討する際、多くの場合は不動産業者の方に評価や査定をお願いすることになります。
しかし、相続登記がされていない不動産の場合、業者の方が評価を引き受けてくれないこともあります。
不動産業者の方としては、所有者が明確でない不動産についての査定をすることは避けたいのです。
相続人と全く関係のない不動産を査定してしまうと無駄な手間が生じますし、勝手に他人の不動産を調査したとなると信用にも関わってくるためです。
結果として、相続した不動産の処分が遅れてしまい、売却して現金を得たり、賃貸収入を得たりする時期が遅くなってしまうことになります。